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その手紙が届いたのは、布団から出るのも億劫な雪の降る朝だった。
一匹のネズミが懸命に窓を叩く音で、私は目が覚めた。
「?今時《使い魔》なんて、おじいちゃんの使いかな?」
ガラス窓を開けてあげると、ネズミは震えながら室内へ入ってきた。

町が燃え盛って焦土になってしまうだなんて、信じたくなかった。
でも、エリヤ・ヘルムの胎児達が来る。
外の寒さのせいで縮みきった様子の子ネズミは、
「コノ、フィリスノマチヲ・・・・・・」と私に伝えて、消えた。

私は少し寝ぼけていたが、窓の外をみて愕然とした。
家の外はまさに炎に包まれて、今にも全てを焼き尽くしてしまいそうであった。
今日は町にゴーレムたちが運ばれてくる予定であったが、炎に巻き込まれないようにすぐに避難することにした。
おじいちゃんの子ネズミが消えてしまったため、おじいちゃんの安否が心配だった。

止めどなく降る雪の中を抜けながら、私は急いで駆け出した。
人通りの少ない裏道を選び、人目につかぬように急いで屋根伝いに町中から遠ざかった。
息を切らして山を登り行く途中、振り返ると、炎に包まれた町の中に今にも燃え尽きてしまいそうな魔法の塔が見えた。
今でこそ過去の遺物と化した魔法の塔であるが、以前は町の栄華の象徴であった。

「そうだ、キジ!それに町の人は……?!」
炎から遠ざかり冷静さを取り戻しつつあった私は、慌てて辺りを見回した。
しかし不思議な事に、避難はおろか、人々の声すら聞こえない。
「そう言えば、火事なのに、雪が溶けてない?」
ブルブルと震えながら、私は息を両手に吐きかけて擦り合わせた。
「またじいさんの仕業か」
振り返ると眠そうな表情のキジがこちらを呆れ顔で見ている。

「町に戻るぞ。あの塔の中に入ったら全部が分かる」
キジはそれだけ言い放つと、やれやれといったようにミハルの肩をぽんとたたき、
雪景色の野山を道なりに下る途中、魔方陣を作った。
私はただその輪の中に入ってついていく。なんだかそっけない気持ちがした。

魔方陣の輪の外に出ると、塔が前に聳え立った。後ろを振り返ると子ネズミを肩においた私のおじいちゃんが立っていた。
「まーたひっかかったな!!」と言い、げらげら笑っている。
「コノフィリスノマチヲ・・・ヨクシッテオキナサイ・・・」子ネズミもニヤけているようだ。
私はムッとして何か言い返そうとしたが、おじいちゃんがまた何かいたずらをするのが怖かったのでやめた。
「人前で魔法を使わないようにするのは、結構な話だが、魔法を見破れないようじゃまだまだ一人前とは言えないな!!ところで、この塔のことだが・・・」

「これは革命前後までは町の中心的建造物として存在していた。この町の政治、文化、経済、そしてあらゆる市民生活の中心であった。しかし今や魔法による統治など必要がなくなってしまった。そのためにこの塔の役割は終わったのだ。それは同時に町の平和も意味する。以前のような人々の絶え間ない争いも見られなくなり、思わぬ外敵に備えることもなくなった。平和の到来はもちろん望ましいことだ。しかしその平和がいつまでも続くとも限らぬ。いつか来るかもしれぬ危機から市民を守るために、魔法能力を受け継いだ選ばれし我々は常に用意が必要なのだ。ミハル、お前ももう子供じゃない。この塔に残された賢人たちの叡智を引き継ぎ、人々の為に尽くすのだ!」
そう言っておじいちゃんは私に一冊の本を渡した。『賢者伝』。
「お前は宿題を楽にする程度のことにしか魔法を使わないからな!見習うのだぞ!はっはっは!」
「余計なお世話よ!」
「それはいいとして少しは塔の中も見てみるかい?」
おじいちゃんは手も触れずに塔の錆びきった扉を開けた。

塔の中は外の寒さが嘘のように暖かかった。
「壁に描かれている文字や魔法陣の多くは、この街に結界を張るものだったり、幻を見せる為のものだったりと自衛としての意味合いが強い。中には雪を降らせたりするものもあるがな」
そう言いながらおじいちゃんは、ニヤリと笑う。
「魔法って言うのは、何の役に立つか分からん物も多い。敵と戦えないゴーレムの虚像。熱さすら持たない幻の炎。しかしそれらを使いこなせてこそ一人前って事なんだよ」

私が小脇に抱えていた本が、ふわりと空中に浮かんだ。
「このファシリティの中では伝送する力の減衰を防げておるからな、ワシの記憶の中のエリヤ・ヘルムをこの場で映し出すことも出来よう」
虚空に浮かんだ青白い光の中にぼんやりとしたひとつの塊が生じていく、それは渦を巻いて次第にヒトの形を成していく。
おじいちゃんは私の顔をじっくりと見つめながら、眉根を寄せてなにか言葉をつぶやいた。その瞬間、ヒトの形をした光が八方に弾けて飛んだ。
塔の中にはじりじりとした音の響きだけが残っている。

「どうだ?何か感じたか?」とおじいちゃんは意地悪な顔をして聞く。
私は正直何もよくわからなかったが、深刻な顔をして適当に答えた。
「この町の歴史ってすごいんですね。はい・・・。」
おじいちゃんは、私に拳骨をくれた。星が見える。

「今のは、ただの光の魔法だ!!例えるならば、花火みたいなもんだぞ!!何もお前には見せていない!!その『賢者伝』よく見て復習しとけ!!」

げらげら笑いながら私の前から離れていった。
私はまたいたずらされたのかと思い、無性に腹が立ったが、おじいちゃんの言いたい事もなんとなく分かった気がしたので、黙っていた。

途方に暮れる私を尻目に、急にキジが唸りだした。と、思う間もなく私の許からおじいちゃんの方向に飛びかかって行った。
「キジ!」
気付いた時にはキジはおじいちゃんの子ネズミを咥えていた。子ネズミは逃れようと足掻くほど傷も深くなる。
私が慌てる一方でおじいちゃんは落ち着いたままだ。
「《使い魔》に仕立てるのなんて簡単なものだ、心配するでない。やっぱりどんな時代でも猫は猫、ネズミはネズミじゃい。はっはっは!」
炎の消えた町にもそのまま雪だけは降り続いていた。



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遠野杏子原案に基づく合作
遠野杏子/su/ALG/オーロラ日和
2012/10/30
三時間程度

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2012.10.30 Tue l 合作 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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