上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
 
 目の前で告白の練習を繰り返す沙織に内心ため息を付きながら、俺はうんうんと頷いた。
 惚れた女に恋愛相談されるパターンと言うのは実にありがちで、そして非常に惨めなものだ。
 更に今の事態を引き起こしたのが他でもない、自分自身の発言の所為だとすれば尚の事。救いようが無い。

 事の発端は、俺が午後の講義をサボって学食で大して上手くもないラーメンを食べている時だった。
「あんた、またサボってんの?単位落とすよ?」
 顔を上げると、ラーメンの乗ったトレーを持った沙織が「やぁ」と立っていた。
「計画的に講義受けてるからな、問題無い」
 隣に座り、手を差し出す沙織に割り箸と胡椒を渡すと、俺はレンゲでラーメンの汁をズズと啜った。
「まぁ別にあんたが良いなら良いんだけどさ」
 受け取った割り箸を見事なまでに非対称に割って、沙織は軽く舌打ちをした。
「相変わらず不器用だな」
「うっさい」
 長さが極端に違う割り箸を俺に押し付けると、沙織は俺の使っていた割り箸を取り上げてそれでラーメンを食べ始めた。
「新しいの割れよ…」
「いいじゃん、別に」
「そんなんだから彼氏出来ないんだよ」
「うっさいなぁ」
 沙織はラーメンに乗っている薬味のネギとひとつまみ、箸で俺の丼に入れると「ほら、お礼」と言った。
「誰かいない訳?お前、実はモテるっしょ?」
 沙織に相手が居ない事を知っているからこそ、出来る会話。
 この開けっ広げな性格に、友情以上の感情を抱いたのはいつからだろうか。
「気になる人とか出来たらさ、もう少しお淑やかに…」
「うっさい」
 いつものように続けようとすると、沙織がそれを遮った。
「……別に、気になる人とかなら、ずっと居るし」
 いつもと違う受け答えに、俺は酷く動揺した。
「え、マジで?」
ズルズルとラーメンを啜る沙織の姿は、いつもに比べどこか余所余所しさを感じた。
「誰?」
「うっさい」
「俺の知ってる人?」
「うっさい」
「……そ、そうか。好きな人、いたのか」
 ショックを顔に出さないように努めながら、俺ははは、と笑ってみせた。
「上手くいくといいな」
「そうだね、上手く行くといいね」
 勝手に俺の丼からしなちくをひょいと取ると、沙織はそのままポリポリと頬張った。
「あ、勝手に食うな」
 ニカっと笑って「うっさい」といつも通りの台詞を言う沙織の顔を、俺はその時まともに見れなかった。

「ところであんたはさ、どんな女がタイプなの?」
 ラーメンを食べ終わり、冷えてない水を飲みながら沙織が聞いてくる。
「そうだな、楽しい奴がいいな」
 お前みたいな奴とか、とは口が裂けても言えずに俺は水を一気に飲み干した。
「どういう告白されたら、OKする?」
 普段恋愛トークなんかしない癖に、今日に限ってやたらと食いついてくる沙織。
「さぁ?相手が可愛かったらどんなんでもOKじゃね?」
「参考にならない」
「その時にならないと分からねぇって」
「告白される時?」
「そうそう」
「あんたさ、この後、暇?」
 脈絡の無い問いに、は?と間抜けな返事を返してしまう。
「時間あるならさ、ちょっと付き合ってよ」
 付き合う、と言う言葉に一瞬ドキリとするが、勿論どこか一緒に行こうって意味だろう。
「別に講義はサボれるけど…どこか行くのか?」
「予行練習」
「は?」
「告白の予行練習。付き合って」

「告白ってさ、メールとか電話じゃダメかな」
 午後の講義を全てサボった俺たちは、大学から少し離れた海浜公園に向かいながらあれこれ話した。
「ありじゃん?ベストは直接だろうけど」
「なるほどねぇ…あんたも直接派?」
「告白するなら?」
「されるなら」
「うーん…直接の方が嬉しいかな」
「そっか」
 秋が近付いているのだろう。まだ日も高いのに公園に吹き込んでくる潮風は思っていたより冷たかった。
「さて、では予行練習といきますかー」沙織はくるっと振り返ると神妙な面持ちで言った。
「取り敢えずお前が思う告白してみ?」俺は半ば自棄になりながら近くにあったベンチへ腰を下ろす。
「すわんなよーあんた練習台でしょ?」
「は?聞いてねぇよ、そんなの」
「うっさい。良いからそこに立っててよ」
 そこから先は生殺しと言うか。生き地獄と言うか。
 好きな女が目の前で「好きです」とか「付き合って下さい」とか言うのを、しかも俺に向けられる事の無い台詞を、延々と聞き続ける事になったのだから。
 目の前で告白の練習を繰り返す沙織に内心ため息を付きながら、俺はうんうんと頷いた。
 惚れた女に恋愛相談されるパターンと言うのは実にありがちで、そして非常に惨めなものだ。
 更に今の事態を引き起こしたのが他でもない、自分自身の発言の所為だとすれば尚の事。救いようが無い。

「あのさ」
 どれくらい予行練習をしただろう。俺は海に向かって「好きだー」と叫んでいる沙織に向かって呼びかけた。
「なにー?」
 沈み始めた太陽を背に振り返った彼女は、まるで後光を放っているかのようにキラキラとしていた。
「そんなに一生懸命叫ばれたら、俺なら絶対にOKしちまうよー」
 釣られて叫んだ俺に「本当ー?」と目を輝かせる沙織を見て、ズキリと心が痛む。
 正直もう見ているのが辛かった。
「ありがと。勇気出た!ならこれで告白する!」
「まじか、叫ぶのかよ」
「そうだよ、絶対OKなんでしょ?」
「俺ならな」
「ならきっと上手く行くよ!」
「……。そうか、頑張れよ」
「おう。付き合ってくれてありがとね」
 それじゃ、と短い挨拶をすると、俺は海を見ている沙織を公園に残して大学へと歩き出した。
 こんなにも昂っている自分の気持ちを伝えられないのが惨めだった。

 大学に戻ると、自販機でコーヒーを買って近くの椅子に座った。
 このまま誰も居ない下宿先の部屋に帰る気にはなれなかった。
 沙織が幸せならそれでいいと格好良い事を思いつつも、本心ではフラれてしまえば、俺にもチャンスが来るんじゃないかとも思っていた。
「最低だな、俺…」
 普段飲まないブラックの缶コーヒーを飲みながら、俺はただぼんやりと時計を眺めていた。

 30分程経った頃に、沙織からメールが届いた。
―――公園に来て。お願い。
 ただそれだけの文章だったが、俺は大学を飛び出すとそのまま公園へと走り出した。
 まさかこの短時間でフラれたのか?
 メールや電話でも良いかな?と言っていたのを思い出す。
 いや、大学の奴なら呼び出して、告白して、十分時間はある。
「沙織!どこだ?!」公園に駆け込んだ俺は、青春ドラマみたいに叫んで沙織を探した。
「うっさいなぁ」
 声がした方を見ると、沙織が「バカ」と苦笑いして立っていた。
「どうした?!まさかお前、フラれ――」
「うっさい」
 軽く腹を殴られて、俺は大人しくする事にした。
 沙織の顔を見る。泣きそうな、笑いだしそうな、妙な表情だった。
「タケルーーー!!」
 沙織が珍しく俺の名前を呼ぶ。
 わぁーーーと叫びながら、いきなりダダっと海の方へ走り出す。
 呆気に摂られた俺は、ただそれを見ているしか無かった。
「タケルーーー!!」
 さっきの予行練習と同じく、海に向かって叫びだす。
「好きだーーー!私と付き合って下さーーーーーい!!」

「お前さ、どんだけ回りくどいんだよ」
 叫び疲れて隣に座り込んだ沙織の頭を、俺はガシガシと撫でてやった。
 嬉しさや照れ臭さ、お互いに色んな感情が混ざって上手く言葉にならない。
「だってさ、失敗したくなかった。タケルが絶対にハイって言ってくれる方法、知りたかったんだもん」
「だからって叫ぶなよ」
「うっさい」ニカっと笑う沙織の顔は、いつもより更に輝いてみえた。
「好きだーーー!!」
 立ち上がってまた叫び出した沙織の背中に、俺も「お前だって、うっさいよ」と笑いながら言ってやった。
スポンサーサイト

2012.10.11 Thu l 遠野杏子 l コメント (3) トラックバック (0) l top

コメント

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012.10.11 Thu l . l 編集
No title
きゅんきゅんしました。
小説を読んでいてこれだけ感情をつき動かされるというのは、優れたストーリーテラーであることの証だと思います。話の運びがとにかくうまいなあと。
ただ、私がちょうど「アフロ田中」を読んだせいもあるでしょうが、大学生くらいの年頃の男子ってもっと下卑たことを考えていそうな。これだけ純朴な青年ってもはやメルヘンの世界にしかいないようにも思われます。ヒロインもヒロインで、なんか腹黒そうやなーと思いました^^;
身も蓋もない意見ですが、そういう方向のあんこさんの小説も読んでみたいです!
2012.10.15 Mon l 凛子. URL l 編集
No title
全体にみずみずしい青春を描けているとは思います。少し甘過ぎるかもとは思いますが、それは必ずしも減点対象ではないです。ただ問題点としては「好きな女性が自分を告白の練習台として使う」時点でその告白の相手が自分だと言うことはほぼわかってしまう、というかその展開自体がもはやパターン化しているような気もしますので、意外性には欠ける印象です。
2012.10.16 Tue l オーロラ. URL l 編集

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://niwakadojin.blog.fc2.com/tb.php/19-01e3e57b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。