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 それは突然のことだった。
 朝なのに空は薄暗く、小さな雨の音が響いている。

 彼女からのメールを確認したのは、終電間際の、混雑した車内でのことだった。
 彼女は、実は、僕の妹である。
「お兄ちゃん、帰りにプリンかってきてよね」という内容であった。
 プリン…何の変哲もない兄妹のやり取りのようであるが、ふたりの間でのメールは暗号のごときもので満ちているのである。

 僕は予定の駅をみっつほど進んだ場所で降りた。
 改札を出て、西口へ出ると、頼まれたものが置いてある場所が視界に入った。
 そう、今月の20日には父親の誕生日が差し迫っているんだ、だから実家暮らしの僕らは、「プリン」というありきたりな言葉で贈り物がなんであるかを隠して行動しているのだが、その店舗に置かれてあるプリン、すなわち名刺入れは、ひと際あざやかに見えた。
 僕は、名刺入れを購入し、そこに父がご贔屓にしている、キャバクラの名刺をそっと、忍ばせた。
 そんな感じで、プレゼントを買うという目的も達成されたし、家路につくことにした。

 プリンとは、父の贔屓のキャバクラ嬢の容姿を揶揄した隠語であり、兄妹ふたりは一度だけその姿を拝見したことがある。
 華やかな身なりをしているけれど、生活の労苦がときおり瞳に翳る、スプーンで、掬って掬って、最後に黒いカラメルがつきあたるような、僕ら二人にとって彼女はそのような人だった。

 それは僕の精神の中で突然起きたことであったが、僕は「プリン」と呼ばれる女と実の母の姿を重ねずにはいられなくなった。
 うち父は、その彼女に対してエンジョをしている、そのことを僕ら兄妹は知っていたし、実の母よりも、その彼女の生活を第一にするようなそんな父だ、けれど、プリンのヨルの仕事が潤滑に行くように、名刺入れを買い与えてあげようというのが、父の思いやりで、僕自身は当初は賛同しきれない部分もあったけれど、プリンと一度会う機会があり、その彼女の人柄、苦境を知り、いつしか僕らはプリンに対して力になりたくなっていた。

 帰宅すると、妹が出迎えてくれ、そのまま僕等は夜を明かした。
 こんな乱れた家を実の母はどうおもっているのだろう、今度の母の日にはカーネーションでも買って持っていこうか、そう思いながら僕は名刺入れを眺めた。
 プリンは、兄妹の実の母以上に、父に似ていた。


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凛子/ALG/su/葉蔵/りこ/雪*華
合作 11/17 一時間程度
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2012.11.18 Sun l 合作 l コメント (0) トラックバック (0) l top
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